「広告→問い合わせ(or来店)→受注」の間にオフラインの成果が挟まると、オンラインだけの計測では真のCPAやLTVが見えません。
オフラインコンバージョンインポート(OCI)は、CRMやPOSの成約データをGoogle広告へ戻し、入札とレポートに反映させる仕組みです。本記事は最新の実務フローに沿って、GCLID/GBRAID/WBRAIDでのクリック連動型と、拡張コンバージョン for リード(ECL)による個人情報ハッシュ照合型の両輪で、初期設定→日次運用→高度な品質管理まで“迷いなく”進められるよう、テンプレート・チェックリスト・エラー対処を網羅した決定版です。
リンクは挿入せず、この記事だけで完結できるように書いています。
1. オフラインコンバージョンの2方式:どちらを使うべきか
A. クリック連動型(GCLID/GBRAID/WBRAID)
- 仕組み:広告クリック時に付与されるID(GCLID/GBRAID/WBRAID)をフォーム送信時に取得→CRMへ保存→成約時にIDと成約情報をGoogle広告へインポート。
- 適合ケース:Webフォーム起点、問い合わせ→商談→受注のBtoB/BtoCリード獲得、iOSを含むクロスデバイス流入。
- 強み:クリックと成果が直接ひも付くためマッチ率が高い。
- 注意:IDの保管とデータ保持期限(一般に90日以内目安)を厳守。
B. 拡張コンバージョン for リード(ECL)
- 仕組み:ユーザーのハッシュ化したファーストパーティ情報(メール、電話、住所等)で照合し、コンバージョンを帰属。
- 適合ケース:GCLID等を取りづらい/欠損が多い、複数接点(電話、対面)や長期検討、iOS比率が高い商材。
- 強み:ID欠損に強く、照合カバレッジを拡大。
- 注意:SHA-256での前処理(正規化→ハッシュ)、同意取得、プライバシー運用の厳格化が必須。
実務ではAを主軸に、欠損補完としてBを併用する「ハイブリッド構成」が定石です。
2. 事前準備(必須)
- コンバージョンアクションの設計
- 最終目標(受注/成約/来店売上)と、中間指標(MQL、SQL、初回訪問など)を分けて定義。
- スマート入札に反映させる対象(“コンバージョンに含める”)は、まずは受注などビジネス価値の高い指標から。
- ID/個人情報の取得体制
- GCLID/GBRAID/WBRAIDをフォームのhiddenに埋め込み→CRM保存。
- ECL併用ならメール/電話/氏名/住所のうち照合できる項目をフォーム→CRMで正規化して保持。
- データガバナンス
- 時刻はアカウントのタイムゾーン(例:Asia/Tokyo)で統一。
- 通貨はアカウント通貨(例:JPY)。
- Order ID(外部ID)で重複排除・再計上の制御を可能に。
3. クリック連動型(GCLID/GBRAID/WBRAID)でのインポート手順
Step 1. 設置 & 保管
- LP/フォームにクリックID格納用hiddenを設置
- 例:
gclid
,wbraid
,gBraid
をCookie/URLから取得→hiddenへ格納
- 例:
- 送信時、CRMのリード/取引テーブルに以下を保存
click_id
(GCLID/GBRAID/WBRAIDのいずれか)lead_time
(問い合わせ日時)deal_time
(成約日時)value
(税込/税抜の扱いを決めて統一)currency
(例:JPY)order_id
(外部の一意ID)
Step 2. Google広告側の準備
- コンバージョンアクションを作成(タイプ:インポート/オフライン → クリック経由)
- 値の扱い:案件ごとに動的値(成約金額)を渡す場合は「値を使用する」を選択。
- 帰属期間/計測設定をビジネスに合わせて設定。
Step 3. ファイル作成(CSV/Sheets)
最小列(例)
Google Click ID, Conversion Name, Conversion Time, Conversion Value, Conversion Currency, Order ID
Google Click ID
:GCLID/GBRAID/WBRAIDのいずれかConversion Name
:Google広告のコンバージョンアクション名と完全一致Conversion Time
:YYYY-MM-DD hh:mm:ss
(アカウントTZ)Conversion Value
:数値(例:120000)Conversion Currency
:JPY
などOrder ID
:重複排除用の外部一意ID
Step 4. インポート(UI/自動化)
- UI:コンバージョン→インポート→ファイルを選択→プレビュー→アップロード。
- 自動化:Google広告API or スプレッドシート連携で日次/時間単位にバッチ投入。
- 検証:初回はサンプル10件でプレビュー→取り込み結果(成功/警告/エラー)を確認。
4. 拡張コンバージョン for リード(ECL)でのインポート手順
Step 1. 取得 & 正規化
- フォームで取得したメール/電話/氏名/住所を正規化
- メール:前後空白削除→小文字化
- 電話:国番号付きで数字のみ(ハイフン削除)
- 氏名:全角/半角統一、不要スペース除去
- 住所:都道府県→市区町村→番地→建物の順で正規化
Step 2. ハッシュ化(SHA-256)
- すべて正規化後にSHA-256でハッシュ化(ソルトなし)
- ハッシュ値のみをCSVへ出力(生データは保持・アクセス権を厳格管理)
最小列(例)
Email, Phone, First Name, Last Name, Country, Postal Code, Conversion Name, Conversion Time, Conversion Value, Conversion Currency, Order ID
- 個人情報列はハッシュ済みを格納。使える列だけでOK(複数入れるとマッチ率向上)。
Country
はJP
などのISOコード。Postal Code
は数字のみ推奨。
Step 3. アクション紐づけ & アップロード
- コンバージョンアクションはリードのオフラインインポート/ECL対応で作成。
- CSV/Sheetsでアップロード→プレビュー→反映。
- GCLIDがない案件もECLで帰属が可能になり、カバレッジが拡大。
5. データ仕様(実務で詰まりやすいポイント)
- タイムゾーン:アカウントTZで統一。異なるTZならISO8601のオフセット付きで明示。
- 通貨:アカウント通貨(例:JPY)。混在はNG。
- 保持期限:クリックからのインポート期限は目安90日以内を厳守(長期検討はECLで補完)。
- 重複排除:
Order ID
を必ず付与。二重登録は自動拒否/上書き。 - 部分返金/キャンセル:コンバージョン調整(Restatement/Retraction)で再アップロード。
- 参照キー:
Order ID
(推奨)またはClick ID + Conversion Time
- 調整値は正/負どちらも可(返金は減額)。
- 参照キー:
6. よくあるエラーと解決チェックシート
(1) 「Conversion Nameが一致しない」
- 余計なスペース/全角半角/大文字小文字の差異を除去。
- 管理画面の名称と完全一致で再出力。
(2) 「Click IDの無効/期限切れ」
- 保存漏れ:フォーム→CRMのhidden保存ログを点検。
- 期限超過:ECLで補完または連携頻度を短縮(毎日→毎時)。
(3) 「時刻/通貨が不正」
- TZを統一(Asia/Tokyo)。フォーマットを
YYYY-MM-DD hh:mm:ss
に固定。 - 通貨列を欠かさず、数値は
.
小数点で。
(4) 「重複インポート」
Order ID
を必須化。- アップロード前に当日分のCSVをIDでユニーク化。
(5) 「ハッシュ形式が不正(ECL)」
- 正規化→SHA-256。メールは小文字、電話は数字のみ。
- ハッシュ済みかをダブルチェック(生値で出していないか)。
7. 日次運用テンプレ(頻度・SLA・QA)
頻度設計(推奨)
- 最低:毎日 1回(営業時間後)
- 重要商材/高CVR:毎時 または3時間ごと
- 調整/キャンセル:発生当日処理
SLA
- CRM登録→インポートまで24時間以内
- エラー率<1%で安定運用
QAチェック(毎日/毎週)
- 成功件数・警告・エラー件数の推移
- マッチ率(クリック連動 vs ECL)
- キャンペーン別CPA/ROASの改善度
- 入札戦略の学習状態(制限/学習中の解消速度)
8. 効果最大化テクニック
- 価値連動(Value-based Bidding)
- 受注金額や見込粗利を
Conversion Value
として送る。高価値案件に入札を寄せる。
- 受注金額や見込粗利を
- 二段階コンバージョン
- MQL/SQL/受注の3階層を別アクションで持ち、学習初期は中間CVも“含める”→安定後は受注重視に絞る。
- 調整で真価を反映
- キャンセル/返金/Upsellを調整インポートで反映し、ROASやtROASの学習を淀みなく。
- ハイブリッド帰属
- クリックID主軸 + ECL補完でマッチ率と偏りを同時に改善。iOSや長期検討に強くなる。
- 除外の設計
- 社内テスト/重複リード/取引NGリストはOrder IDベースで除外。学習を汚さない。
9. 付録
9-1. クリック連動型:CSVひな形
Google Click ID,Conversion Name,Conversion Time,Conversion Value,Conversion Currency,Order ID
EAIaIQobChMIabcdEFg,受注,2025-09-18 16:30:00,120000,JPY,ORD-20250918-0001
9-2. ECL:CSVひな形(ハッシュ済み)
Email,Phone,First Name,Last Name,Country,Postal Code,Conversion Name,Conversion Time,Conversion Value,Conversion Currency,Order ID
<sha256_email>,<sha256_phone>,<sha256_fname>,<sha256_lname>,JP,1500001,受注,2025-09-18 16:30:00,120000,JPY,ORD-20250918-0001
9-3. Apps ScriptでのSHA-256ハッシュ(例)
function sha256Normalized(str) {
if (str == null) return '';
const normalized = String(str).trim().toLowerCase();
const digest = Utilities.computeDigest(Utilities.DigestAlgorithm.SHA_256, normalized);
return digest.map(b => ('0' + (b & 0xff).toString(16)).slice(-2)).join('');
}
9-4. 用語集(要点だけ)
- GCLID / GBRAID / WBRAID:クリック識別子。iOS含む環境でIDの種類が変わる。
- ECL:拡張コンバージョン for リード。ハッシュ化した個人情報で照合。
- Restatement/Retraction:コンバージョン調整(再評価/取消)。
- Order ID:外部の一意ID。重複排除と調整の鍵。
まとめ
- まずはクリック連動型を確実に回し、ECLで欠損を補完する構成が最短距離。
- タイムゾーン/通貨/名称/Order IDの4点を揃えるだけで、初期の躓きはほぼ回避できます。
- 取り込みを短サイクル化し、調整インポートで“売上の真実”を入札に伝えれば、CPA/ROASは自然と改善します。
本記事のテンプレとチェックリストを使い、まずは10件のテスト投入→プレビュー確認→本番日次化までを一気に進めましょう。